学会抄録紹介

2011年5月 第115回日本眼科学会総会

ES/iPS細胞由来網膜色素上皮細胞シートの作製

1.目的

高齢者の主要な失明原因のひとつである 加齢黄斑変性 かれいおうはんへんせい は、加齢変化による網膜色素上皮細胞(RPE)の機能低下を一因とする疾患で、RPE移植により機能維持や回復が期待される。 我々 われわれ はすでにヒトiPS細胞からRPEへの文化誘導に成功しており、今後RPE移植を臨床 応用するにあたり、移植片を主体のRPEに近づけるためRPEシートの作製を試みた。

2.対象と方法

Transwell™のinsert内にコラーゲンゲルを作製し、iPS細胞由来RPEをゲル上に播いた。コンフルエント後、ERISA法により血管内皮増殖因子(VEGF) や色素上皮由来因子(PEDF)を測定した。その後コラーゲンゲルにコラゲナーゼを添加し、RPEをinsertから切り離し、これを免疫染色にてRPEマーカーの発現 を検討した。

3.結果

培養開始後、約4週間でRPEはコンフルエントとなった。この時VEGFは基底側、PEDFは上皮側に優位に分泌し、極性を持つことを示した。コラゲナーゼ添加後、RPEをinsertから切り離すとシート状のRPEが得られた。このRPEシートは単層上皮の形態をとり、密着結合の構成蛋白 であるZO-1と基底膜の構成蛋白である lamininやCollagen-4を発現していたことから、形態・機能的に成熟したRPEシートが作製できたと考えた。

4.結論

形態・機能的に成熟したRPEシートの作製に成功した。今後作製したiPS-RPEシートを用い自家・他家移植を行い、拒絶反応の有無や 機能を評価する予定である。

圧力駆動バルーンアクチュエータを用いた細胞シート移植操作の検討

1.目的

細胞シートを網膜下へ移植するための手術器具、手技の開発。

2.対象と方法

ヒトiPS細胞から文化誘導されたRPE細胞のコロニーを分離、再培養して作製した細胞シートを準備し、レーザーマイクロダイセクション (LMD)を用いて任意の大きさに切り出すことを試みた。網膜下移植用器具として、ポリジメチルシロキサン(PDMS)膜を成型して作製した、 四角形の先端部を円筒形に折り畳むことが可能な圧力駆動バルーンアクチュエータを用いて、器具先端部への細胞シートの搭載およびシートの 折り畳み、液体中への挿入および目標部位へのシート貼り付けといった一連の動作について検討した。

3.結果

細胞シートはLMDを用いることにより任意の大きさ、形に成形することが可能であった。PDMS表面部分的に親水性に処理することにより器具先端 へのシート搭載は容易になり、搭載したシートは折り畳みおよび伸展が可能であった。器具先端から液体を噴出させる流路を付加することで、 細胞シートの貼り付け動作も可能であった。

4.結論

網膜下への細胞シート移植は極性を持った大きな細胞シートを狭い眼内へ安全、確実に移植する技術が不可欠であり、バルーンアクチュエータ を用いた移植技術は有望な方法と考えられるが、今後さらに眼内、網膜下での操作に適応するべく器具および手技の改良を行い、安全性、確実性を確立する必要がある。

2011年3月 第10回日本再生医療学会総会

【シンポジウム】網膜色素上皮細胞移植に向けた取り組み

網膜最外層に存在する網膜色素上皮は、暗箱の役割をして鮮明な視覚の獲得に貢献するとともに、神経網膜層を血管の豊富な脈絡膜と隔てるバリアとして働き、また光を受容する視細胞の生存や機能維持を助けるといった、視機能の維持に必須な役割を担っている。 加齢黄斑変性 かれいおうはんへんせい は中途失明原因において 上位に位置する疾患であり、網 膜色素上皮が障害を受け変性することにより生ずることが知られて いるが、変性した網膜色素上皮を再生することができれば、本疾患 における病状の改善や進行抑制が期待できる。 我々 われわれ はこれまでにマ ウスやサル、ヒトのES/iPS細胞より網膜色素上皮細胞を分化に成功した実績を持っており、さらにこのようにして得られた網膜色素上皮細胞を移植し障害部位を置換・再生することにより、上で述べた網膜疾患の治療を目指した研究開発を行っている。

本講演では、1.安定した細胞培養法の開発、2.移植する細胞の有効性、3.効果的な移植法の開発、4.細胞培養に用いる試薬類の安全性、5.移植する細胞の安全性、といった観点から検討した細胞移植プロトコール開発を中心に、臨 床試験に向けた 我々 われわれ の取り組みについて紹介したい。

ES/iPS細胞由来網膜色素上皮細胞シートの網膜下移植手技の開発

1.目的

網膜色素変性 もうまくしきそへんせい や加齢黄班変性のような網膜の変性をきたす疾患において、変性、萎縮に陥った網膜色素上皮(RPE)の再生は有力な治療となりうると期待される 我々 われわれ は、ES/iPS細胞由来のRPE細胞の移植の臨床応用を目標としているが、健常なRPEのバリア機能の回復と、感覚網膜の保護という治療の目的に対してはRPEの 細胞シートを網膜下の障害部位に移植するのが最も理想的と考えられる。今回、ES/iPS細胞由来RPE細胞シートを網膜下へ移植するためのデバイスを試作し、移植実験を試みた。

2.方法と結果

ヒトiPS細胞から文化誘導されたRPE細胞のコロニーを分離、再培養して細胞シートを作成した。細胞シートを3×3mm大に切り出し、シート移植のため、圧力駆動バルーンアクチュエータを用いて細胞シートの搭載、リリースが可能かどうかをディッシュ上で試みたところ、細胞シートの搭載は可能であったが、リリース動作は完全にはできない場合があることが判明した。

3.結論

網膜下への細胞シート移植は極性を持った大きな細胞シートを狭い眼内へ安全、確実に移植する技術が不可欠であり、バルーンアクチュエーターを用いた 移植技術は有望な方法と考えられるが、今後さらにデバイスの改良を行っていく必要がある。

マウス変性モデルでの視細胞移植

1.目的

網膜変性モデルマウスの視細胞移植において、シナプス形成/移植細胞の分化促進、炎症の抑制などの観点より、生着率を向上させる添加因子/処置について検討した。

2.方法

rd1マウスの網膜下に生後3日から7日令のnrl-GFPマウスの網膜細胞を移植した。移植時の細胞懸濁液にvalproic acid(VPA:10μM-10mM)を添加,及びglatiramer acetate(300μg/匹 )をComplete Freund’s adjuvantと共に移植1週間前に皮下接種し、2週間後の生着率の違いを検討した。

3.結果

移植時の1mMのVPA添加で、生着細胞数は最大であり、以下1mM VPAの添加により実験を行った。 変性急性期終了後早期の生後4週令から6週令において、VPAにより細胞生着数は有意に増加し、4、5週令では約2倍の細胞生着が得られた。また移植後の炎症反応を1)マイクログリア(MG)++、移植細胞 +  2) MG + 移植細胞 +,3)MG + , 移植細胞+の3群にわけて評価すると、glatiramer acetatete投与群では3)郡が移植眼の半数を超えたのに対し、非投与群では15%以下にとどまった。

4.考察

変性網膜の視細胞移植において、VPA添加及びgfatiramer acetateなどによる炎症抑制が有効であった。

ES/iPS細胞由来網膜色素上皮細胞の移植方法の検討

1.目的

高齢者の失明原因の一つである 加齢黄斑変性 かれいおうはんへんせい は加齢変化による網膜色素上皮細胞(RPE)の機能低下を一因とする疾患で、RPE移植により機能維持や回復が期待される。 我々 われわれ は前臨床試験としてサルのES/iPS細胞を作製し、RPEへの分化誘導に成功している。今後臨床応用にあたりRPE移植の手術手技を検討するため、 ES/iPS-RPEを懸濁液及びシートで移植し、それぞれの可否、利点欠点などを検討した。

2.方法

雄のカニクイザルに、懸濁液とシートの状態のES/iPS-RPEを移植した。懸濁液移植は人工的網膜剥離作製後、網膜下にGFPラベルしたRPEを5×104cell/50μl注入した。 シート移植は1mmx2mmの移植シートを作成し、硝子体切除後、人工的網膜剥離を作製し、網膜下への挿入を試みた。

3.結果

懸濁液移植は、安定かつ安全に行うことができたが、術後作製した網膜剥離の下縁に移動した。シート移植は、ほぼ目的部位に潤滑に挿入する事が可能であり、術後位置も挿入位置に安定した。現法ではシートの挿入速度のコントロールがやや難しく、 シートが反転する可能性があり、挿入器具についてはさらなる検討が必要である。両者とも術中、術後に合併症は認めなかった。

4.結論

シート移植は術中の操作によりある程度移植部位をコントロールすることができ、臨床応用に適していると思われた。今後より正確、安全な挿入のため、より的確な挿入器具の開発が望まれる。

2010年4月 第64回日本眼科学会

マウス変性網膜への視細胞移植の条件検討

1.目的

マウス変性網膜(C3H/HeJ:rd 1)の変性進行過程上における適切な移植時期の選択、及び生着に寄与する因子を検討した。

2.方法

rd マウスの変性進行過程を,GFAP (glial fibrillary acidic protein), Iba1 (microglia), PKC (protein kinase C:rod bipolar cell), ZO-1 (outer limiting membrane) を指標に免疫組織学的に調べた。その上で、4-8 週令のマウスに生後3-7 日令のNRL-GFP 網膜細胞を移植し、1.gliosis 阻害剤(ChABC, rho kinase inhibitor:H-1152P)2. 細胞浸潤促進剤(17- beta estradiol:E2、cobalt)3. 分化促進因子(valprolic acid :VPA), 4. 再生環境促進因子(wnt 3 a)を添加、2週間後に移植細胞の生着を検討した。

3.結果

GFAP 発現、microglia はrod 変性進行期に増強、その後一旦沈静化し、10週以降は再度GFAP の増強、PKC 陽性細胞減少傾向がみられた。rod 変性後4週令から8週令までほぼ同じ効率で細胞生着がみられた。以下、無添加コントロール群(平均細胞数25 / section) に比べ、ChABC は6週令で2倍、8週令で1.8 倍、VPA は4週令、6週令で2倍及び2.4 倍に生着率を向上させた。

4.結論

rod 消失後の変性網膜においても移植視細胞が生着する可能性が示された。分化促進因子やグリオーシス融解因子が生着率を向上させると思われた。

変異持つ 網膜色素変性 もうまくしきそへんせい 症患者の iPS 細胞作製及び視細胞への分化誘導

1.目的

桿体視細胞 かんたいしさいぼう (RP)は 網膜色素変性 もうまくしきそへんせい の変性による遺伝性網膜疾患である。変異による視細胞変性のメカニズム(例えばRP1とRP9)は十分解明されていないため、治療になる薬が未だ現れていない。今回、 我々 われわれ はこれまでに遺伝子診断で変異を同定したRP患者のiPS細胞の作製及び視細胞への分化を試みた。

2.方法

RP1遺伝子とRP9遺伝子変異を持つRP患者三人の皮膚線維芽細胞を培養し、レトロウイルス感染によるリプログラミングファクター(OCT3/4 、KLF4 、c-MYCとSOX2)の遺伝子導入を行ってiPS細胞ラインを作製した。未分化マーカーであるNanog、Oct3/4やTra-1-60などの発現を免疫染色した。iPS 細胞の奇形腫形成はSCIDマウスを用いて確認した。更に、 SFEB 法を用いて視細胞へ分化させ、RT-PCRや免疫染色法にて網膜前駆細胞、視細胞precursorと錐体、桿体視細胞のマーカーを調べた。

3.結果

培養線維芽細胞にウイルス感染した3週間後にiPS様コロニーが現れた。患者由来のiPS細胞は未分化マーカーが陽性であった。三胚葉由来組織を構成する奇形腫も確認された。In vitro 分化によって神経網膜前駆細胞(Pax6+Rx+)、色素上皮前駆細胞(Pax6+Mitf+)、視細胞precursor(Crx+)と錐体(Opsin+)、桿体(Rhodopsin+)視細胞も確認された。

4.結論

RP患者におけるES細胞様のiPS細胞を作製した。これらのiPS細胞から分化誘導によって網膜視細胞の作製に成功した。

網膜色素変性 もうまくしきそへんせい における脈絡膜厚の評価

1.目的

網膜色素変性 もうまくしきそへんせい (RP)での黄斑部脈絡膜厚を測定し、病態との関連を検討すること。

2.対象

スペクトラルドメインOCT(SD-OCT)にて解析可能な画像の得られた定型的RPで他疾患の合併のない50例50眼。

3.方法

中心窩下及び、中心窩より上下鼻耳側1.5mmと3mmの位置での脈絡膜厚、視細胞層厚を測定した。

4.結果

対象の平均年齢は48.6歳、等価球面度数の平均は-1.8Dであった。中心窩下での脈絡膜厚は228±74μm、3mmにおける厚さはそれぞれ鼻側104±51μm、 耳側197±66μm、上側220±64μm、下側174±61μmであった。上側以外の3方向において脈絡膜厚は中心窩より有意に薄かった。 中心窩視細胞層厚と脈絡膜厚の間に相関を認めなかったが、上下鼻耳側の視細胞層厚の平均と中心窩脈絡膜厚は有意に相関した(r=0.37、P<0.01)。

5.結論

RPにおいて脈絡膜厚は、Ikunoらの報告(2009, IOVS)における正常眼の中心窩下脈絡膜厚(354μm)と比べ明らかに薄く、 中心窩から周辺に離れるにつれさらに薄くなる傾向があった。RP眼では正常眼に比較して下側の脈絡膜厚が強く減少していた。RP眼においては、視細胞の変性によって、 脈絡膜の循環血流量が減少することや、網膜色素上皮の変性により脈絡膜毛細血管板が委縮することで、脈絡膜が薄くなっていると考えられた。

網膜色素上皮の萎縮が網膜の変性に先行した 網膜色素変性 もうまくしきそへんせい 4症例

1.緒言

網膜色素変性 もうまくしきそへんせい (retinitis pigmentosa:RP)は遺伝子変異による視細胞・網膜色素上皮(RPE)の変性により視野狭窄をきたす疾患であり、多くの原因遺伝子が同定されているが、視細胞・RPEの変性過程については十分には解明されておらず、その多くは視細胞の変性が先行すると考えられている。今回、スペクトラルドメインOCT(SD-OCT)を用いて変性パターンを調べたRP症例の中で、網膜の変性に先行してRPEの障害が進行していると考えられた4症例を報告する。

2.症例

当院で経過観察中のRP4例8眼。SD-OCT(Spectralis HRA+OCT®)を用いて、中心窩を含む水平・垂直断面でRPE、視細胞層(ONL)を評価したところ、いずれもONLが比較的残存している領域にRPEの萎縮を認めた。また検眼鏡では、OCT上でのRPE変性範囲に一致した領域で色素沈着・脱失が認められた。うち2症例では、比較的正常な色調の黄斑内において境界明瞭な輪状色素脱失帯を傍中心窩に認め、OCT上もその帯に一致してRPEの萎縮が見られ、その周囲ではRPEは保たれていた。

3.考察

4症例では、検眼鏡で網脈絡膜萎縮病変を認める部位において、RPEが萎縮していてもONLが残存しており、RPEの障害が先行した可能性が示唆された。

サルiPS細胞の作製と網膜色素上皮細胞への分化誘導

1.目的

網膜色素変性 もうまくしきそへんせい 加齢黄斑変性 かれいおうはんへんせい などの1次的もしくは2次的に網膜色素上皮(RPE)細胞が障害される疾患に対し、RPEの移植は機能維持や回復への1つの手段と考えられる。 我々 われわれ はすでにヒトiPS細胞からRPEへの分化誘導に成功しているが、臨床応用に向けて自己iPS細胞由来の分化細胞について拒絶反応の有無を検証する必要がある。そのため 我々 われわれ は、大型動物モデルであるサルのiPS細胞を作製し、RPEへの分化誘導を試みた。

2.方法

カニクイザルの皮膚を採取しレトロウィルスを用いて4遺伝子を導入して作製したiPS細胞を、Wnt及びNodalシグナル阻害剤存在下の無血清培地中で1週間浮遊培養した後、接着培養を行いRPEのマーカーの発現を免疫染色にて検討した。

3.結果

分化開始後、約3週間程度でRPE前駆細胞のマーカーであるPax6/Mitf陽性の細胞を認め、その後に色素を有する多角形の敷石状構造からなる細胞が出現した。さらに接着培養を続け、分化開始後約3ヶ月後に成熟RPE細胞のマーカーであるRPE65陽性の細胞を認めた。また色素を有する細胞のコロニーを単離して再培養し、RPE単独での維持培養ができることも確認した。

4.結論

ヒトiPS細胞と同様の方法で、サルiPS細胞からもRPEが得られた。今後この細胞を自家移植することで、拒絶反応や移植細胞の生着・機能などの検討ができると考えられる。

2009年10月 第63回日本臨床眼科学会

網膜色素変性 もうまくしきそへんせい のスペクトラルドメイン光干渉断層計画像における網膜内の顆粒状所見

1.目的

近年、スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)により、網膜内の詳細な観察が可能となった。 今回、 網膜色素変性 もうまくしきそへんせい 患者のSD-OCT画像において網膜内顆粒層(INL)および外顆粒層(ONL)の異常所見と考えられる顆粒状所見について検討した。

2.方法

2009年1月から5月の間に神戸市立医療センター中央市民病院の眼科外来を受診した初診または経過観察中の 網膜色素変性 もうまくしきそへんせい 患者60例120眼(14から80歳、平均49.9±15.9歳)の両眼のSD-OCT(Spectralis HRA/OCT, Heiderberg Engineering社)画像所見を、 視細胞内節外節境界(IS/OS)の有無、INLおよびONLの顆粒状所見の有無について検討した。

3.結果

60例全例でIS/OSの有無、顆粒状所見の有無については左右眼でほぼ同様であった。60例中IS/OSの存在したのは35例で、その内顆粒状所見が観察されたものはINLのみが10例、ONLのみが4例、INL、ONL両方が14例であった。INLの顆粒状所見はIS/OSの残存する領域の内側に、ONLの顆粒状所見はIS/OSの残存する領域の周辺側に多くみられた。IS/OSの存在しなかった25例でも、部分的に島状の外節様の構造が残存しているような像が見られ、顆粒状所見が観察されたものはINL、ONL 両方が9例、ONLのみが16例であった。

4.結論

SD-OCTによる網膜内の画像の検討で、 網膜色素変性 もうまくしきそへんせい 患者のINL、ONLにみられる顆粒状所見は、 網膜色素変性 もうまくしきそへんせい の進行にともなう各層内の構造の変化が描出されている可能性があり、変性の進行様式を示唆するとも考えられる。

移植時ホスト網膜の環境の検討―成体網膜と新生児網膜

1.目的

網膜移植において移植細胞の生体網膜への生着はまだ十分な成果が得られていない。手掛りとしてホストの日令による移植細胞の生着の違い、ホスト環境の違いについて検討した。

2.方法

生後3日から7日令のEGFP発現マウス網膜を、生後7から8日令及び6から8週令網膜の組織培養、または同日令生体網膜下に移植し、生着及びホスト網膜の反応を比較した。

3.結果

組織培養において生体網膜では細胞内への移植細胞侵入は稀であった。P8網膜の組織培養では移植細胞が定位置に生着する像がみられた。生体移植においても、生体網膜では細胞侵入増はまれで、しばしば網膜下グリオーシスに阻まれ、移植細胞がマイクログリア、色素上皮に処理される像がみられた。P7網膜では移植2週後に外節をこえて移 植視細胞が生着する像がみられ, グリオーシス反応も穏やかであった。 組織培養網膜ではP8網膜ではGFAP,nestin の増強はあまりみられなかったが、成体網膜ではGFAP は3日目、nestin は1日後をピークとする増強がみられた。成体移植において、エストロゲンやコンドロイチ ナーゼの同時投与は移植細胞の生存には有効であったがグリオーシス予防には十分な効果は得られなかった。

4.結論

移植細胞の生着にGFAPまたはnestinといった因子の抑制が大切であると思われたが、移植細胞受け入れのホスト環境の整備については今後さらなる検討が必要である。

2009年9月 『視覚科学フォーラム』第13回研究会 @ アットマーク 鹿児島

多点電極アレイを用いた網膜変性モデルでの視機能評価

1.目的

網膜の光に対する応答を調べるときには,網膜電図,Electroretinogram(ERG)が臨床的にも実験的にもよく用いられる。しかし、通常のERGでは網膜の全体の応答を取得するため、局所的な情報を得ることができない。本研究では、網膜の局所的な光応答を複数点同時計測するために、多点電極アレイ、Multi-electrode array (MEA) を用いた。また、この計測系を評価するためにいくつかの網膜変性モデルでの光応答を調べた。

2.方法

暗順応したラット/マウスの網膜を赤色光下で取り出し、1.2mm四方のMEAチップの上に硝子体側を下にしてアンカーで固定した。そして網膜にLEDの白色光を照射して各電極からの応答を調べた。
このとき光応答の性質を調べるためにいくつかの薬剤を用いた。

3.結果

網膜に光照射すると各電極からERGの“a-wave”、“b-wave”様の波形を取得することができた。“b-wave”様の波形はmGluR6のアゴニストであるAP4で抑えられたが、“a-wave”様の波形は抑えられなかった。“a-wave”様の波形は生後12日齢のマウスから取得され,生後15日齢でほぼ成体と同様の大きさの応答を示した。網膜変性モデルマウスである、C3H/HeJで(通常のERGでは光応答は確認されない)MEA測定系を用いると、生後13日齢でわずかに応答が計測され、その後減衰することがわかった。この結果は網膜組織に残存する視細胞の免疫抗体染色の結果ともよく一致している. またN-methyl-N-nitrosourea(MNU)を腹腔投与すると網膜視細胞が変性することが知られているが、MNUをラットに投与し、ERGで確認すると、MNU投与後3日目でかなり応答が減少し、7日目では全く応答を得られなかった。実際、網膜組織を免疫抗体染色で見ると、MNU投与後3日目でかなりの網膜視細胞層が減少し、7日目では網膜中心部ではほとんどなくなっていた。ただ、7日目でも網膜辺縁部で は視細胞層がまだ残存していた。そこで次にMEAで光応答を調べると、ERG計測と同様にMNU投与後3日目で応答は減少するが、7日目においてもわずかながら応答を計測することができた。また、網膜中心部と辺縁部とで同時に応答を取得すると辺縁部でより大きな応答が確認できた。

4.結論

これらの結果から、MEAによる測定系は局所的で微小な網膜組織の光応答を計測できることが分かった。この測定系は、細胞移植や遺伝子治療の効果を計測するために有用であると考えられる。

2009年4月 第113回日本眼科学会総会

ヒト人工多能性幹細胞由来網膜色素上皮細胞および視細胞の分化誘導

1.目的

網膜色素変性 もうまくしきそへんせい などの網膜変性疾患に対し、細胞移植は機能回復への一つの手段と考えられる。細胞移植治療の開発に際して患者自身から細胞が安全かつ十分に得られれば移植細胞の供給源として理想的である。今回 我々 われわれ はすでにヒトES細胞から網膜色素上皮細胞および視細胞への分化誘導で確立した方法を適用してヒトiPS細胞から分化誘導を試みた結果を報告する。

2.対象と方法

未分化ヒトiPS細胞を無血清培地中で浮遊細胞塊を形成させ培養した後、接着培養を行い網膜前駆細胞のマーカー(Rx、Pax6)および視細胞のマーカーの発現を免疫細胞染色で検討した。

3.結果

WntおよびNodalシグナルの阻害薬の存在下に浮遊細胞塊を形成させ20日間培養した後、接着培養を行うと分化開始後約40日目に網膜前駆細胞のマーカーであるRx/Pax6陽性の細胞が一部に認められた。また40~60日目に色素を有する多角形の網膜色素上皮様の細胞が出現した。その後さらに接着培養を続け分化開始後90日目以降に培地に視細胞への分化誘導因子であるレチノイン酸とタウリンを加え、分化開始後約120日目には網膜視細胞のマーカーであるリカバリンとロドプシンの発現を認めた。

4.結論

ヒトES細胞から網膜細胞への分化誘導法を用いてヒトiPS細胞においても網膜色素上皮細胞および視細胞のマーカーを発現する細胞の出現を認めた。iPS細胞が網膜疾患への細胞移植治療の細胞供給源となる可能性が示唆された。

マウス変性網膜への視細胞移植

1.目的

マウス変性網膜の異なる変性時期に視細胞移植を行い、細胞の生着状態について慢性の変性モデル、急性変性モデルを用いて詳細に観察する。

2.対象と方法

1から4, 週令のC3H/HeJ(rd) マウス、及び6から8週令のBL6 マウスにMNU 投与した視細胞変性マウスの変性 早期及び終焉早期にそれぞれ生後3から7日令の網膜細胞の移植を行い、2週間後に固定、移植細胞の生着状態及びマイクログリア、GFAP、シナプスマーカー、双極細胞と移植細胞の関係などを免疫組織学的に観察した。

3.結果

健常網膜への移植においては効率よい移植細胞の生着がみられ、移植細胞へのマイクログリアの集積増強やGFAP染色性の増強は みられなかった。rdマウスへの移植では2週令以降の移植では本来の外網状層に突起伸展して生着する移植視細胞は殆どなかったが、異所性に双極細胞と接する移植細胞像が観察された。また、変性極期を過ぎると外層でのマイクログリアは消退し、移植細胞への強い集積はみられなかった。移植細胞はホスト網膜内への生着の有無にかかわらず、外節形成様変化やリボンシナプスマーカー陽性となるものがみられた。BL/6 のMNU変性モデルにおいては、変性早期の移植において、網膜外層内への移植細胞の生着とシナプス層への突起伸展像、外節形成像が確認できた。

4.結論

移植視細胞は成熟傾向にあり、変性早期であれば外層に生着する可能性が示唆された。

2009年3月 第8回日本再生医療学会総会

マウス網膜への視細胞移植の条件検討

1.目的

マウス視細胞移植におけるよりよい生着条件を検討する。

2.方法

生後4から7日令のマウス網膜細胞を6から8週令の健常マウス網膜下に移植し、よりよい生着を得るための移植手技を検討した。またその手技を用いて、1,2,3,4,週令のrdマウス及び6から8週令のMNU投与による視細胞変性マウスに移植を行い、移植2週間後に細胞の生着状態を観察した。

3.結果

移植細胞を穏やかに解離、移植前の眼内圧の減少など移植手技の改善により、効率よく視細胞が健常成体網膜に生着するプロトコールを確率した。移植細胞生着時に移植細胞へのマイクログリアの集積増強やGFAP染色性の増強はみられなかった。BL/6移植細胞をMRL,BALB/Cなど異系ホスト網膜に移植したものでは、 BL/6同系移植に比べ移植細胞の生着効率は極端に悪かった。rdマウスの移植(異系移植)では本来の外網状層に突起進展して生着する細胞はほとんどなかったが、網膜外層に移動してきたbipolar細胞と接する移植細胞像が観察された。BL/6同系のMNU変性モデルにおいては、薬剤投与2日後の移植において、変性過程の進行過程においても網膜外層への移植細胞の生着が確認できた。

4.結論

生後4から7日令のBL/6網膜視細胞が、BL/6健常網膜及びMNU変性網膜で外層に生着することが確認できた。

2008年4月 第112回日本眼科学会総会

遺伝形式不明な 網膜色素変性症 もうまくしきそへんせいしょう における遺伝子解析

1.目的

今まで 網膜色素変性症 もうまくしきそへんせいしょう (RP)に関する数多くの原因遺伝子が分かった。然し、半分以上を占める遺伝形式不明のRP患者に対する遺伝子診断や遺伝カウンセリングは ほぼできないのである。 我々 われわれ は新たな方法で遺伝形式不明のRP患者における遺伝原因究明のため 大規模の変異解析を行った。

2.方法

まずはすべての報告変異と変異領域をまとめた。141 遺伝形式不明な家系と52人弧発患者の血液サンプルからDNAを抽出し、其々に108個エキソン(30遺伝子)をdHPLC-Sequencing法でスクリーニングした。 すべてのnon-synonymous variantsに対してbioinformatic方法で解析した。

3.結果

28家系や弧発患者(14.07%)で18個新規変異を含むトータル26個変異を同定した。弧発患者二人と一家系に異なる二つ遺伝子での変異を見つけた。同定した23missense変異の内、21個はソフト解析の結果と一致だった。

4.結論

我々 われわれ は初めて遺伝形式不明なRPにおける臨床応用できる方法を立った。日本人RP、特に弧発例について変異のスペクトルを分かった。また、新たなdigenic変異を同定した。臨床遺伝子診断で出た多くMissense variantに対して、bioinformatic解析は変異予測に役立つである。

誘導多能性幹細胞からの網膜視細胞への分化誘導

1.目的

網膜色素変性 もうまくしきそへんせい などの網膜変性疾患に対し、細胞移植による視機能の再建は機能回復への一つの手段と考えられる。 細胞移植治療の開発に際して患者自身から細胞が安全かつ十分にえられれば移植細胞の供給源として 理想的である。2006年に繊維芽細胞への特定の遺伝子を導入することにより誘導され、胚性幹(Embryonic stem;ES)細胞に類似した特性を持つ誘導多能性幹(induced pluripotent stem ;iPS)細胞が報告された。今回 我々 われわれ はすでに ES細胞から網膜視細胞への分化誘導で確立した方法を適用してiPS細胞から網膜視細胞への分化誘導を試みた。

2.方法

iPS細胞を無血清倍地中で浮遊細胞塊を形成させ培養した後、接着培養を行い網膜前駆細胞のマーカー(Px、Pax6)および 桿体視細胞のマーカー(ロドプシン)の発現を免疫細胞染色で検討した。

3.結果

Wntシグナルの阻害薬およびNodalシグナルの阻害薬の存在下に浮遊培養の後、接着培養を行うと分化開始後15日前後でRx/Pax6陽性の細胞を認めた。その後さらにレチノイン酸、タウリン、N2を培地に添加して培養を継続すると分化開始後45日前後でロドプシン陽性の細胞を認めた。

4.結論

ES細胞から視細胞への分化誘導法を用いてiPS細胞においても視細胞マーカーを発現する細胞の出現を認めた。より高率に視細胞を誘導するための条件など今後の検討が必要であるが体細胞由来の細胞を誘導するための条件など今後の検討が必要であるが体細胞由来の細胞が移植治療において移植細胞の供給源となる可能性が示唆された。

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