2016 研究成果報告 印刷用ページ(PDF)

ごあいさつ

 いつも網膜再生医療研究にご理解とご支援をいただき、誠にありがとうございます。

これまで、多くの方々の応援や協力に支えられ、20 年以上を費やしてきた再生医療研究もおかげさまで臨床研究を行うところまで進み、治療法の確立に突き進んでいます。

次のステップとして、再生医療と対を成すと考えているロービジョンケアを広め、見えない、見えにくい人の就労支援や視覚障害に対する意識変革を行うために必要となるisee! 運動 を広めていくことが重要だと考えています。私たちが行なうiPS 細胞を使った再生医療とロービジョンケアの融合、これこそが本当に患者さんを救う真の再生医療の完成であると確信し ています。

昨年行われたパラリンピックの閉会式で、障害が不自由なものとしてだけではなく才能や 人格として表現されているのを見て、時代はすでに障害に対する偏見や誤解に満ちた時 代から真の共生、インクルーシブの時代へと変わりつつあると感じました。

私たちが目指す人生のゴールは一本道でなく、また、目指すべきゴールも人それぞれ多 様です。私たちは常に他の人ではなく自分自身が決めたゴールに向かえばよいのです。迷っ たり、回り道をすることがあるかもしれません。また、思った通りに物事が運ばないことも多 くあるかもしれませんが、着実に一歩を重ねていけば自分自身が決めたゴールに到達する はずです。

2017 年秋には基礎研究から、応用研究、臨床研究、治療、そしてロービジョンケア、 就労支援へと途切れることのないビジョンケアを実践する場として神戸アイセンター(仮称) がオープンします。

最高のケアを提供することは、私一人の力だけでは難しいと思いますが、協力・協働し てくださるみなさんと一緒に、私たちが目指すゴールの実現に向けて歩み続けたいと願って います。どうぞ、これからもご支援・ご協力をよろしくお願いいたします。

理化学研究所 多細胞システム形成研究センター
網膜再生医療研究開発プロジェクト
高橋 政代

1 iPS細胞を用いた臨床研究について

2 視細胞移植研究について

3 網膜炎症プロジェクトについて

4 遺伝子診断について

5 網膜変性疾患の病態の解析と創薬研究について

6 眼科機能解析・遠隔ロービジョンケアについて

6 メラノプシンプロジェクト・光リハビリプロジェクトついて

6 冬眠の臨床応用について

9 神戸アイセンター構想 ~すべての人のNEXT VISIONを実現するために~

7 業績など

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1.iPS細胞を用いた臨床研究について

 2014 年9 月、私たちは世界に先駆けて、iPS 細胞から作り出した網膜の細胞を、そのご本人に移植する手術を 実施しました。そして2017 年3 月、今度は他人のiPS 細胞から作り出した網膜細胞の移植手術を行いました。  私たちは網膜機能の再生を目指し研究を進めています。その最初の一歩として、「iPS 細胞由来網膜色素上皮 (RPE)細胞移植」の臨床研究を行っています。この研究は、ご高齢の方に多い眼の病気のひとつである「滲出型 加齢黄斑変性」の患者さんを対象に、iPS 細胞から作製したRPE 細胞を網膜の下に移植することにより、視機能 を維持、改善する新たな治療法の開発を目指すものです。  2014 年に移植を受けた最初の患者さんについては、細胞の腫瘍化など安全性上の問題は起きていません。視 力の大幅な回復などの効果はみられませんが、視力の低下は抑えられており、経過は順調です。この患者さんに ついては、ご本人の皮膚の細胞からiPS 細胞を作り出し、それをRPE 細胞に変化させて移植する「自家移植」を 行いました。この方法は、自分の細胞を用いるため拒絶反応が起こりにくいという利点はありますが、一人ひとり iPS 細胞を作るため、大変な時間と費用がかかります。  そのため、今後はより多くの患者さんに、早く治療を届けることを目標として、京都大学iPS 細胞研究所と協力し、 あらかじめ作っておいた、拒絶反応を起こしにくい特殊なiPS 細胞を利用する「他家移植」を進めています。 2017 年3 月に一人目の患者さんへの移植を行いました。拒絶反応が起きないかなど、経過を注意深く観察しな がら、さらに研究を進めてまいります。

1-1 臨床研究とは

  • 新しい治療法が一般的な治療法として認められるためには、その治療法に効果があり、安全であることを確か める必要があります。そのためにいろいろな試験をします。多くの場合は動物で試験を行った後に、人を対象とし た試験へ、段階を踏んで進めていきます。このような、人を対象とする試験を「臨床研究」と言います。臨床研究は、 通常の治療とは異なり、新しい治療法の効き目や安全性を調べる研究的な側面をもちます。現在、病気や怪我を した時にさまざまな治療を受けることができるのは、過去に行われた臨床研究に参加していただいた患者さんの 協力によりもたらされたものです。

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1-2 iPS細胞とは

  • 皮膚などの体細胞に、いくつかの因子(遺伝子)を入れることによって作り出された、様々な組織や臓器 の細胞に分化する能力(多能性)と、ほぼ無限に増殖する能力を持った、人工多能性幹細胞( induce dpluripotent stem cell)のことです。2006年に、 京都大学の山中伸弥教授が世界で初めて作製に成功しました。

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1-3 網膜色素上皮(RPE)細胞とは

  •  網膜の外側にあり、網膜を保護する役目を持つ細胞です。 RPE の機能が低下すると、網膜が弱って視力、視機能が低下します。私たちは、iPS 細胞から、生体から得られるもの と同等の機能を持つRPEを作り出すことに成功しており、動物実験によりそれが生体内で機能すること、腫瘍化など 安全性面で問題がないことを確認しました。

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 加齢黄斑変性は、加齢に伴って発症する網膜の黄斑部の変性で、主な原因はRPEの老化(機能低下)によるも のと考えられています。加齢黄斑変性には滲出型と萎縮型の二つのタイプがあります。日本人に特に多い滲出型 は、RPEの下から異常な血管が生えてきて網膜がダメージを受けるもので、現在の治療法としては、血管ができる のを抑える薬の眼球注射(ルセンティス、アイリーアなど)が主流となっています。これは早期の症例には有効で す。しかし症状が進んだ場合には効果は低く、視機能を維持・回復させるためには、異常な血管や瘢痕組織を取り 除くとともに、網膜下のRPEの再建が必要です。  RPEは網膜を元気に保つために重要な役割を担っています。RPEの機能が低下すると、網膜が弱って視力、視 機能が低下します。私たちは、iPS細胞から、生体から得られるものと同等の機能を持つRPEを作り出すことに成 功しており、動物実験によりそれが生体内で機能すること、腫瘍化など安全性において問題のないことを確認しま した。これらの研究結果に基づき、倫理審査委員会と厚生労働省の審査を受けた上で、臨床研究を開始しました。  今回移植を受けた患者さんについては、細胞の腫瘍化など安全性上の問題は起きていません。視力の大幅な 回復などの効果は見られませんが、今のところ新生血管の再発も見られず、経過は順調です。

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1-4 加齢黄斑変性とは

  • 加齢に伴って発症する網膜の中心部分(黄斑)の変性で、主な原因はRPE の老化(機能低下)によるものと考 えられています。加齢黄斑変性のうち、日本人に特に多い滲出型加齢黄斑変性は、RPE の下から異常な血管が生 えてきて網膜がダメージを受けるもので、現在の治療法としては、血管ができるのを抑える薬の眼球注射(アイリー ア、ルセンティスなど)が行われています。これは初期の症例には有効ですが、症状が進んだ場合には効果は低く、 視機能を維持・回復させるためには、網膜を保護するRPE の再建が必要です。
  • 眼の構造

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2 視細胞移植研究について

 網膜色素変性は日本では約3000 人に1 人とされている遺伝性の変性疾患で、視細胞の中でも桿状細胞といわ れる、特に暗いところで光を感じる細胞が変性して失われていきます。なので、最初は夜盲症といって暗いところ でものが見づらかったり、進行とともに視野が狭くなって真ん中の部分しか見えない状態となっていきます(図)。 私たちはこういった変性疾患を対象としてiPS 細胞から作った網膜組織を変性した網膜の下に移植して、光を感じ なくなった部位が再び光や物の形がわかるようになるような治療を目指して研究しています。下の図では、中央の 部分だけ視細胞が残っていますが(黄色丸、断面図矢印の領域)、その周りの白い枠で示したような部位に視細胞 移植をすることによって、少し視野が広がったり、暗いところで光がわかったり、といった効果が期待できる可能性 があります。また、このように周りから失われていく細胞を進行途上で補ってやると、真ん中の「視力」に一番関 係する大事な部分の変性を遅らせる効果も期待できる可能性があります。最近マウスを使った研究で、実際にiPS 細胞から分化した視細胞を移植することにより、光がわからなかったマウスが光がわかるようになることを報告しま した。現在ヒトのiPS 細胞でも同様な効果が得られるかどうかの確認と共に、ヒトでの応用を目指して準備を進めています。

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2-1 2016 年度の研究成果と今後の取り組み

網膜の断面図をみると、変性疾患では次の図のように「視細胞」(ONL)の層がなくなっていきます。ここに、移 植した組織が「層構造をもって生着すること」がマウスの実験でわかってきました。

また、マウスの実験ではホストの神経細胞が移植視細胞とシナプス結合し、生着した移植視細胞が光に反応す ること、そのシグナルがホストの神経細胞にも伝わっていること、さらに行動解析によって、実際に移植後のマウ スが光を感知するようになる、ということを確認し、報告しました。


↑ホスト網膜の移植片のある部分(緑)で光応答がみられ、移植した細胞が少なくとも光に 反応していることを示している

 また、マウスだけでなく、ヒトのES やiPS 細胞からも同様の移植用の網膜組織が作れることや、これらの組織 が移植後きれいに分化成熟した視細胞になることも確認しています。  現在は、マウスでのこれまでの研究をもとに、ヒトの移植組織を用いても同様に移植後の視機能の解析を進め ると同時に、臨床応用にむけての安全性試験に着手しました。さらに、よりよい視機能の再建をめざして移植片の 改良の可能性についても研究をすすめています。

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2 網膜炎症プロジェクトについて

2-1 網膜細胞移植(他家移植)に向けた取り組みについて

ヒト白血球抗原(MHC)がホモのiPS 細胞で作製した網膜細胞(RPE 細胞)をMHC が合う型の他人へ移植すれば炎症(拒絶反応)が抑えられる。

    サルを用いた動物実験
  •  ヒト白血球抗原 (MHC) がホモのiPS 細胞から網膜細胞 (RPE 細胞) を分化誘導
  • MHC 抗原が合う別のサルの網膜下へ移植(他家移植)
  • 免疫抑制剤を使用しなくても網膜の炎症 なし → 拒絶反応なく、移植細胞が生着
  • iPS 細胞を自家移植で行う場合、コストが高く、培養期間が長いという問題がある
  • iPS バンクを作製してそのバンクからMHC が合う細胞を移植で利用すればコスト、時間を大幅に削減できる
sinbunkirinuki
*クリックにて拡大
上記の結果を踏まえて、2017 年3 月に加齢黄斑変性患者へiPS 細胞から作製した網膜の細胞(RPE 細胞)の他家移植を世界で初めて行った

   平成29 年度の研究成果目標と今後の取り組み ― 上記臨床試験の成功を目指す。

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3-2 眼感染症・ぶどう膜炎の新しい診断検査について

     眼局所検体を用いて眼感染症を網羅的・包括的に検査する画期的な診断法
  1. マルチプレックスPCR(多項目迅速PCR)&定量リアルタイムPCR
  2. ブロードレンジ定量PCR(細菌種、真菌種全般遺伝子検査)
  • 眼感染性には、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫など多種多様の病原菌が関与
  • 近年、分子生物学の検査技術の進歩により多くの症例で診断がつくようになった
  • 眼感染性の炎症の病態は実際は複雑で、症例によっては複数の病原菌が関与している可能性あり
  • マルチプレックスPCR の眼感染症検査はスクリーニング検査としてその診断に有用
  • ブロードレンジPCR は細菌種、真菌種全般の遺伝子を同定する検査で有用

      平成29 年度の研究成果目標と今後の取り組み ― 全国の多施設でこの共同研究を行い、先進医療申請を目指す。

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3 遺伝子診断について

  網膜再生医療研究開発プロジェクトでは網膜変性疾患(主に網膜色素変性)の患者さんの遺伝子診断を行っています。網膜色素変性は遺伝子の変化が原因で起こる病気です。まだまだ原因となる遺伝子が全て解明されたわけではありませんが、現在までに60 ~70遺伝子が報告されています。当チームでは患者さんにより良い医療を 提供するため、外来で運用可能な遺伝子診断・遺伝カウンセリングシステムの構築と実施を目指しています。
 また、これまでにわかった原因遺伝子の解析結果と患者さんの臨床情報を適切に管理するためのデータベースを構築しています。こうした情報を解析し、原因遺伝子別の頻度、病気の進み方や症状の差、遺伝子診断法の確立、さらには、新しい治療法の研究や、適した治療薬の選択に役立てることを目指しています。  
  同時に、遺伝子の変化が原因と考えられていることから「遺伝」がかかわります。そのかかわり方は様々で、子どもに必ず遺伝するということではありませんし、網膜色素変性の半分近くの方は親族にまったく同じ病気の方がおられない孤発例です。遺伝子診断の結果は、遺伝のパターンが予測される結果でもありますので、患者さんやそのご家族にとって大きな意味を持つことがあります。病気のご理解とご心配を含め、慎重な検討を必要とすることもあり、 遺伝カウンセラーが一緒に、検査が患者さんやご家族にとってどういう意味を持つかを検討するための「遺伝カウンセリング」という場を設けています。

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4-1 私たちの取り組み~専門施設と共同での遺伝子診断システムの構築~

  私たちは、全国の病院・研究機関の網膜変性疾患の患者さんの遺伝子診断を行うと同時に、患者さんへの遺伝カウンセリングを行っています。最先端の遺伝子解析技術を有する研究施設と共同で研究することにより確実であり、コスト面でも普及可能となるよう検討を重ねてきました。今後は我々の遺伝子診断・カウンセリングシステムを臨床応用していくことを目指しています。

4-2 遺伝子診断はどのような方法で行われるのか?

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5 網膜変性疾患の病態の解析と創薬研究について

私たちは iPS細胞から作製した網膜組織の移植による網膜機能再生の研究を進めると共に、モデル動物や患者さん由来iPS細胞を用いて病変に至る仕組みを明らかする研究を進めています。また、症状の進行を未然に防ぐための薬剤の探索研究を進めています。  
モデル動物には、対象の網膜変性疾患と同様の病態を示す動物を用いて、病変に至るまでの網膜の変化を調べます。 例えば、加齢黄斑変性では色素上皮細胞層の裏側に走行する脈絡膜毛細血管の変容により網膜が障害を受けて失明に至りますが、 変性の起点となる脈絡膜毛細血管の発達・維持をコントロールする仕組みはよく分かっていません。 私たちは、通常のマウスと比べて脈絡膜毛細血管の形成能力が低い遺伝子変異マウスを発見しました

(図1)。このマウスは老齢になると加齢黄斑変性の病状が現れるため、変性症状が現れる前の網膜細胞の変化の解析を進めています。

患者さん由来iPS細胞は、先端医療センター・神戸市立医療センター 中央市民病院や神戸大学・東北大学など他研究機関の患者さんにご協力いただき、網膜変性疾患iPS細胞を樹立しています。これらの iPS細胞より網膜組織(神経網膜・色素上皮細胞)を作製し、健常者iPS細胞由来の網膜組織と比較することにより、それぞれの網膜変性疾患における病変に至る仕組みを明らかにする研究を進めています(図2)。 また、症状の進行を抑制する薬剤やサプリメントの探索も進めています。

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5-1 2017年度の研究成果目標と今後の取り組み

加齢黄斑変性様の症状を示す遺伝子変異マウスの解析を進め、脈絡膜毛細血管の維持に受容な因子の解析を進めていく予定です。 また、網膜疾患患者由来iPS細胞から作製した網膜組織による試験管内での病態の再現と、病態を抑制するための化合物の探索を進めていく予定です。

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6 眼科機能解析・遠隔ロービジョンケアについて

6-1 眼科機能解析

視覚が再建された患者さんの視機能評価は、従来の視力・視野検査では不十分な場合が多く、0.01前後の視力の精査・視覚探索のための眼球運動とこれに関連する視野検査・視力視野以外の視機能検査が必要になることが想定されています。そのため、私たちはこれらについて情報収集をはかるとともに、新たな検査法についても開発を進めています。たとえば、読み速度を測定することが、視覚に障害を負った方の生活に有効なアドバイスを行う上でとても重要だと言われていますが、従来の読み速度を測定する装置では、視力が0.01程度まで低下した場合、精度良く測定することは困難です。そこで、我々は従来検査よりも低視力の患者さんに対応可能な読書評価法を開発しました。 これは、従来から定評のある読書評価法「MNREAD-J」の3文字版です。原法では、30文字からなる文章をできるだけ速く読むことで、読書速度を測定しますが、3文字版では、同じ画面により大きな文字が呈示可能となり、これまで測定できなかった低視力の方に対しても活用可能となります。また、私たちはそれ以外にも、眩しさに関連する視覚のダイナミックレンジを測定する方法や眼球運動から視野を推定する方法についても検討を始めているところです。

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遠隔ロービジョンケア

 活用可能な視覚を保有していても、その使い方がわからずにいるロービジョンの方を対象とする支援が広がってきています。 このような支援は、ロービジョンケアと呼ばれています。
ロービジョンと全盲の境界は曖昧ですので、ロービジョンケアは、視覚障害者支援を含む概念としても通用します。これは、従来から、視覚障害者のための社会福祉施設を中心に行われていましたが、その利用には身体障害者手帳が不可欠でした。近年、手帳の所持にかかわらず眼科での支援が各地で行われるようになりました。しかし、そういった福祉施設や眼科医療機関は全国に数多くあるわけではありません。しかも、視覚に障害を負った方は、どこへでも一人で行けるわけもなく、なかなかそのサービスを受けることができません。このように物理的には近所にいても、実質的には遠隔地というのが視覚障害者の実態なのです。
そこで、私たちは最近のIT機器の発展に伴って一般に使用されるようになってきたテレビ電話のアプリを使用して、 地元で当事者に直接関わる支援の方を調査員として、遠方の福祉施設や眼科医療機関の専門家を支援者として彼らを繋ぐことで、遠隔ロービジョンケアの実施可能性を模索する研究を行っています。 そして、私たちはこのような遠隔のケアシステムを、相談業務だけでなく、日常のちょっとした行動サポートに活用できないかとも考え、さらには、他人が関与せずともAIでできる範囲はどこまでかを究めていくことを視野に入れた技術開発にも手をつけ始めています。

CTを活用した寡少専門家による地域・在宅ロービジョンケア

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7 メラノプシンプロジェクト・光リハビリプロジェクトついて

メラノプシンプロジェクト

 哺乳類は光受容に特化した視細胞でモノを見ます。長らく視細胞のみが網膜で光反応すると考えられていましたが、 2000年頃から新規の光反応性細胞があることがわかってきました。 これらの細胞はメラノプシンと呼ばれる光反応性のタンパク質を発現し、従来の視機能と は少し異なる光応答を担うことがわかってきています。例えばメラノプシン細胞は光による概日リズムの調節や 瞳孔反射などのいわゆる非視覚機能を担うことが知られています。

最近ではさらに睡眠や気分さらには学習にも影響するという報告もあります。我々はメラノプシンの光反応特性を解析し、メラノプシンに特異的な新たな光 反応機構を発見しました。メラノプシンは特に強い光刺激あるいは持続性の光刺激での応答に適していることが分かりました。 視覚機能では動いているものを感知するため「光の変化」を検出することが重要ですが、非視覚機能では逆に細かい光変化に惑わされず全体的な光量を感知するためだと考えています。我々はさらにメラノプシンの光反応特性を解析し異なる光環境におけるメラノプシンの反応を予測するモデルを作っています。現代人は人工的な光に囲まれた環境で生活していますが、実はこのような光刺激はメラノプシンを介して思わぬ副作用を持っていることが懸念されています。メラノプシンの光反応を理解することでこれまで知られていなかったこのような光による作用を理解し、 また非視覚機能も考慮した光環境作りに役立てて行きたいです。

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7-2 光リハビリプロジェクト

我々は視細胞移植による変性網膜の視機能再生を目指して研究を続けています。すでに移植片が宿主と繋がることは示していますが、 今後はその効果、効率が視機能再生の大きな課題となります。移植片が機能を発するには神経細胞と神経細胞の接続であるシナプスを形成しなければなりません。 そこで移植片と宿主の「繋がり」を評価するため、従来人によって数えられていたシナプスを定性的そして客観的に定量する手法を開発しました。図はシナプスの模式図及び実際に測定した画像データを示します。 緑、赤の点は神経シナプスを検出した点です。またこの手法を使って網膜の発生における光の効果を検証しました。その結果発生途中の視細胞のシナプスは光刺激に影響されている可能性があることがわかりました。網膜の発生と移植片の定着は、 両者とも視細胞が成熟し下流の細胞と繋がるという点で似ていると言えます。 移植網膜でも光を効率的に使えば、非侵襲的に視機能の回復を促すことができるかもしれません。

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8 冬眠の臨床応用について

冬眠は動物の基礎代謝が著しく下がった状態で、代謝が通常の1%程度まで低下します。このような能動的低代謝を臓器保存に応用する研究を行っています。

8-1 基礎代謝とは

哺乳類は体温を一定に保つために全身の細胞で酸素を消費しながら熱を作っています。生命機能を維持するために最低限必要な代謝を基礎代謝と呼びます。

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8-2 能動的低代謝とは

一部の哺乳類は冬期や飢餓などエネルギー源が乏しくなったときに基礎代謝をさらに下げて生き残るという戦略を取ります。この故意に省エネ状態に入るこ一部の哺乳類は冬期や飢餓などエネルギー源が乏しくなったときに基礎代謝をさらに下げて生き残るという戦略を取ります。この故意に省エネ状態に入ることを期間によって冬眠(数ヶ月)あるいは休眠(数時間)と呼びます。

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8-3 代謝を下げることのメリットとデメリット

基礎代謝を下げることで必要な酸素や栄養分が著しく減るので、食べ物などがなくても生き延びる可能性が高まります。 一方で、基礎代謝が低下するために体温の維持ができず、体が動かなくなるため、他の動物から捕食されやすいという難点もあります。

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8-4 冬眠の臨床応用

幹細胞から分化させた組織や臓器も生きているので代謝を保つためには栄養や酸素を供給し続ける必要があり、そのための維持費がかかります。そこで、私たちは冬眠の原理を応用し、臓器の基礎代謝を安全に下げる研究を行っています。このことで、臓器・組織の維持費が安くなり、再生医療の普及が加速すると考えているからです。冬眠の臨床応用は臓器保存に留まりません。 重症患者の搬送や、全身麻酔の安全化、あるいは病的肥満の新治療など、様々な医療分野で応用が期待されます。

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8-5 実験でわかったこと

冬眠動物は入手困難であることや遺伝子の情報が乏しいことから研究対象として様々な問題を抱えています。 そこで私たちは、これらの問題点がクリアされているマウスを実験対象として用いて低代謝の研究を行っています。その第一歩として、マウスの休眠を安定的に誘導する方法を確立し、 さらに実験によって冬眠動物と共通のメカニズムを共有している可能性があることを突き止めました。

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8-6 今後の取組

マウスを使って休眠のメカニズムを明らかにすることで、冬眠や休眠を行わない人間に何が不足しているのかを調べていきます。 そして、足りないものを外部から補充することで、人間の組織や臓器を低代謝状態に誘導することを目指します。

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9 神戸アイセンター構想 ~すべての人のNEXT VISIONを実現するために~

   2017年秋(予定)、ポートアイランド(神戸市中央区)に神戸アイセンター(仮称)がオープンします。
2013年から自家iPS細胞を使った臨床研究がスタートし、2017年には他家iPS細胞を使った臨床研究が行なわれるなど、再生医療研究は順調に進んでいます。
  そして、基礎、応用、臨床研究の先にある治療の次に、さらに私たちが目指すのは、再生医療を補完し、再生医療によって向上する視機能を最大限に活かすロービジョンケアへつなぐことです。 そこで、リハビリや就労支援といった出口まで一元的に情報提供を行うために神戸アイセンターが必要だと考えています。

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延床面積約8,000平米、7階建ての神戸アイセンターでは、理化学研究所の網膜再生医療研究開発プロジェクトが網膜再生医療研究を行うだけでなく、 眼科の専門病院である神戸市立神戸アイセンター病院が診療を行い、そして、ロービジョンケアに関する様々な情報を提供する情報コンシェルジュが常駐するビジョンパークができます。  まさに神戸アイセンターでは理想のビジョンケアが実現すると言えます。

また、神戸アイセンターでは、患者さんはもちろんのこと、そのご家族や見えない・見えにくい人、支援者、医療従事者、福祉や教育関係者、企業といった様々な領域を超えた人々のつながりが生まれます。  私たちはすべての人の NEXT VISION(夢)実現を支援するために、最新で安全な治療、役立つ情報の提供、未来を拓く教育や訓練など、種々のニーズに対応し、 アカデミア、医療、産業を融合し、研究からのイノベーションと事業化、進歩的な医療を神戸アイセンターから実現していきます。

 

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